1. ヤンゴン発バンコク経由ローマ
3/12/2017
30代も半ばを過ぎるまで記憶を無くすということをあまり意識することはなかった。お酒を飲みすぎ、記憶を無くして粗相するという類の記憶の喪失ではない。過去に見た、きっと忘れることはないだろうと心を奪われた美しい風景、思い出深い人々、美味しかった食べ物。意外にも簡単に人は記憶の所在を見失ってしまう。僕は仕事で普段はなかなか行けないようなところに行けたりもするけれど、もちろん全てを覚えていられるわけでは決してなく、失われた記憶のことを考えると少し寂しい気持ちになる。そんなことを今回のイタリア旅行の最中に撮った写真を眺めながらぼんやりと考えていた。
初めてイタリアを訪れたのは5年前になる。当時はパキスタンで働いていて、8週間ごとに1週間の休暇があるといった恵まれた環境であったため、休暇の1つの目的地を友人の住むローマとした。意外にイタリアもパキスタンも町並みや人の見た目が似ているなと驚いた記憶があるが、街中に突然と現れる遺跡に感動し、気軽に美味しいチーズやワインを楽しむ、とても楽しい旅行だった。普段は海外旅行中に洋服などを買うことはないのだが、珍しく東京以外で欲しいものがいろいろと出てくる街だったことも記憶している。ローマ滞在時は日本人とイタリア人カップルの友人の家にずっとお世話になっており、夜ご飯は友達の作るご飯をほぼご馳走になっていたのだけれど、それはそれで格別に楽しい旅行だった。
前回の訪問があまりにも楽しかったものだから、またイタリアを訪ねたいとは常に考えてはいたが、なかなかアジアを抜けだすきっかけは訪れず、数年が経った。今年こそはイタリアに行きたいと考えていたものの、友人との予定が微妙に合わなかったり、いつから休暇が取れるのか直前まで確定しにくかったこともあり、行くことを決心したのは出発の前日になってしまった。海外旅行が一大イベントであり、数ヶ月前から旅行代理店を通してチケットを予約するのが一般的だったのはそこまで遠い昔ではない。しかし今ではインターネットで格安チケットが気軽に買えるようになり、ガイドブックを持たずともその場でスマートフォンを用いて街の情報を調べることが可能になり、驚くほどカジュアルに国境を越える旅を楽しめるようになった。あまり準備をせず旅に出るのは経験上あまりお勧めはできないが、現金とパスポートがあればなんとかなるというのは実証済みである。
旅に出るときにはできるだけコンセプトを考えてから行き先を決めるようにしている。それは何かを学ぶことができたり、新しい経験を積むことのできるような旅にしたいという気持ちがあるからであって、いつも事前に考えるように心がけている。とは言っても毎回コンセプトを設定するのに苦戦し、今回も「チェンマイでヨガ三昧+バンコクで歯医者と健康診断」といった、健康的なのだかどうだかよく分からない非常にプラクティカルな旅行にしようかどうか非常に悩んだ挙句、初心をきちんと貫こうとイタリア行きを決心した。結局コンセプトを事前に設定することはできなかったが、コンセプトは旅を続けるにつれ明確になっていた。そして、最終的にはとても感化されることの多い、非常に学ぶことの多い旅となった。
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