5. 食べるということ

3/22/2017


1. ヤンゴン発バンコク経由ローマ

ブラの街の生協
旅に出るときはいつでも、目的地のガイドブックの他に、複数の文庫本や単行本を荷物に詰め込んだものだ。旅の荷物をパッキングをしていると、本当に読むのかわからないような本でも、どうしても持っていきたい衝動に駆られることがよくあり、結局、重いのに苦労して運んだ本を読まずに持ち帰るということも多々あった。最近では電子書籍が普及してきたこともあり、本当に必要かどうかわからない重い荷物をわざわざ増やす必要は無くなった。また、海外に住む日本語話者としては、場所を構わず気になる日本語書籍を購入することのできる電子書籍には本当に感謝している。


今回のイタリア旅行においても、何冊かの本を読む時間を持つことができた。以前に言及したイタリア料理及びスローフード関連の本も電子書籍として購入したものだし、その他にも読みたかったけどまだ読めていない本が、電子書籍リーダーの中にはたくさん入っていた。上原善広の「日本の路地を旅する」という本も、
そのような本の1つだ。 

「日本の路地を旅する」という本は、大阪の「路地(=被差別部落)」 出身の上原による、日本全国の被差別部落を訪問した記録である。スローフードに関心を持ち、「食」に関する興味が高まっていた自分にとって、この本の第1章からしてハッと思わされることが多かった。自らの出自に関して描かれている第1章は、上原の実家が営んでいた屠場の朝の様子から始まる。 

関東出身の多くの人が言うように、そして、そのことは決して誇れることではないと思うのだが、私は被差別部落に関してあまり学ぶこともなく育った。部落出身者には屠畜業に従事している人が多いという話は聞いたことはあったが、実際の屠畜業に対する知識は皆無に等しかったし、スーパーでプラスチックのパックに入って見かける肉自体が、どのような経緯を経て、販売されているのかも考えたことはあまりなかった。またこの著者は「路地のグルメ」という本も出版しているが、日本全国の被差別部落に共通するような独特の「食文化」が存在することなんて想像したこともなかった。


最近では意識の高い消費者も増え、生産者と消費者がより目に見える形で繋がりやすくなるよう、野菜の生産者名を記して販売している店も増えてきている。昨年、友人を訪ねた岡山県和気町の農協では生産者名が野菜だけでなく、乾物などにも記されていて、地元産の食材で溢れた売り場で私は一人嬉々としていた。一方、食肉に関しては、どのようなプロセスを経て食肉がスーパーや肉屋に並ぶのか、どれだけの人が正しい知識を持っているのであろうか。


地産地消や季節の食材を楽しむことはとても大切だと思う。また自分や家族の健康、環境への影響を配慮して、オーガニックな食べ物を志向することもとても素晴らしいことだと思う。しかし、どのような背景のもと各食材が生産され、どういった人々が生産者として携わっているのかを知ることも、同じように大切なのではないだろうか。悪者扱いされがちな冷凍食品やコンビニの弁当だって、人の手を介して丁寧に工場で生産されている。私たちの食生活がどのような社会システムのもと、どのような人々の労働によって支えられているのかを、もう少しきちんと学びたいと思った。包括的な視点を持って食文化を新たに捉え直していくことによって、より持続性が高く、我々の生活をますます豊かにすることのできる食文化が形成されていくのだと思う。

 そんなことをトリノからミラノに戻るイタリアの鉄道の中でおぼろげに考えていた。


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