4. スローフードの街

3/19/2017


カタツムリはスローフード運動のトレードマーク
「スローフード」は確かに聞き覚えのある言葉だった。それは今回会うことのできなかったミラノ在住の友達が確かスローフードが主題のドキュメンタリーを作ったと言っていたからかもしれないし、さらにずっと遡って、大学の友人がイタリアで有機農家との国際交流を促進するWWOOFのボランティアに参加した時の話に出てきたのかもしれない。単純に時間をかけて食事をすることだけを意味しているわけではないとの認識はあったが、スローフードが具体的に何を意味しているのかに関しては、ずっと気になってはいたが、今まできちんと調べてみたことはなかった。

スローフード協会のホームページの説明によると、「スローフード」とは1989年に設立された草の根で活動する団体の名称であり、また同時に多様かつローカルな食文化及び伝統の保存を推進するグローバルな運動でもある。ファーストフードに代表されるような「速さ」に重きを置いた生活に警鐘を鳴らし、スローな食事を通して、食の豊かさや、環境、命の大切さなどを現代に生きる忙しい人々に再考することを促す。その運動はなんと160カ国を超えており、日本でもスローフードジャパンが2004年に設立されている。

スローフード協会の国際本部は、イタリア北部ピエモンテ州のブラという街にある。我ながらミーハーだなとは思いつつ、今回のイタリア旅行では国際本部のあるブラ、ブラに隣接したトリュフで有名なアルバ、そしてピエモンテ州の州都である大都市トリノを駆け足で周ることにした。スローフードを学びたいという割には、随分とせわしい旅程になってしまったが、ローマに着いてから旅程を考えた割には、大満足のピエモンテ旅行となった。幸いなことに、トリノでは偶然にもスローフードの祭典とも言われる「Terra Madre Salone Del Gusto」といった大きなイベントも開催されていた。

スローフードについて学びたいなんて書くと、随分と高尚な旅行であったかのように聞こえるかもしれないが、
実際にはスローフードを体験するということを口実に、美味しい地元の特産品を食べまくり、飲みまくった、自分の胃の小ささを恨むような旅であった。ブラではスローフード協会国際本部に隣接するBoccondivinoというレストランでブラ特産である生ソーセジを味わい、アルバ、トリノでは薄切りの牛肉にツナソースをかけた「Vitello Tonnato」、日本では食べることの難しくなった生牛肉のたたき「Carne Cruda」、卵黄入りの手打ちパスタ「Tajarin」などのピエモンテ名産品をひたすら堪能した。ピエモンテ州はワインの産地としてもとても有名なため、ピエモンテを代表するバローロやバルバレスコといったワインももちろん十分に楽しんだ。

スローフードの哲学に対する理解がこの旅を通じてどれほど深まったのか、正直なところ自分でもあまり確かではない。ただ、地産地消を心がけ、季節の食材を最大限に楽しむといった、食にまつわる根本の思想には少しだけ触れることができたとは思う。観光客の多いレストランに行くことが多かったからかもしれないし、マーケティング戦略に乗せられているだけかもしれないけれども、地元の名産を大切にしようという意気込みを街全体から感じることができたことも新鮮だった。トリノで開催されていた「Terra Madre Salone Del Gusto」は想像していた以上に商業的なイベントであり少し驚いた。スケジュールが合わなかったため聞きに行くことはできなかったが、「開発援助と食文化」や「移民と食文化」などといったとても興味深いテーマの講演会も行われていたりしたので、Salone Del Gustoをもう少し深く経験することができたら、スローフード運動のまた違った側面が見えてきたのかもしれない。

スローフード、丁寧な暮らし、シェアエコノミー、パーマカルチャー、地産地消、etc。

これらの言葉に共通なのは、今までの大量生産、大量消費型経済を見直し、自らの手でオルタナティブな世界を作ろうという意気込みが、とてもゆるやかにではあるがその根底に感じられるということだろう。美味しいものをたくさん飲み食いしながら、色々考え続けた今回のイタリア旅行は、当初予想していたよりも知的な刺激に充ちた旅となり、非常に感化されることの多い旅となった。せっかくイタリアに来たのだから、たくさんの食材を買って帰り、ミャンマーに帰ってからも楽しもうと企てていたのだけれども、結局はほとんど何も買って帰らなかった。唯一購入した食材は、トリノのイータリー本店で購入したケッパーの塩漬けくらい。対照的に、今暮らしているミャンマーの、その食文化に関してもう少し関心を持ち、積極的に学んで行こうという気分が高まったのだった。

アルバで利用したB&Bでの朝食。
テラスで食べることができて気持ちが良かった。
続き

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